きょうのあさ

登校する8歳の息子といっしょにマンションの階段を降りる。3日ぶりにすっきり晴れた。青空だ。

 

マンションには掃除のおばさんがいる。毎朝、ていねいに廊下をはいたり、ごみをまとめて出したりしてくれている。すれちがう朝も、すれちがわない朝もある。すれちがったら、おはようございますとあいさつをかわす。あいさつのできない息子はいつも隣でだまっている。

 

以前は、おまえもあいさつしろ、なぜできないんだと怒っていた。でも、かわらなかった。だから、ここ2カ月ぐらいは怒らずに、おばさんに会ったら、あいさつしようぜと誘うようにしていた。息子はニヤニヤし、えーできないと言うだけだった。

 

きょうも、やつのパーカーのフードを意味もなくやつの頭にかぶせながら、おばさんに会ったらあいさつしようぜと誘った。フードをかぶせられるがまま、やつはいつものようにニヤニヤした。

 

きょうはすれちがわないかなと思ったら、おばさんはマンションのまえの歩道を掃いていた。わたしは郵便受けの新聞をとりにきただけだったので、入り口のところで息子を送り出す。よし、おはようございますだ!と小声であおりながら。

 

向こう側をむいて道を掃いているおばさんの横を、息子がのろのろと歩いて通りすぎようとする。わたしは柱の陰でながめる。きょうもだめだろうなあと考える。

 

のろのろ歩きの息子が方向を変えた。おばさんの横で立ち止まった。そしてすぐにだーっと全速力で走って逃げていった。フードをかぶったままだったので、カオはみえなかったし、なにか言ったのか、なにも言ってないのかもわからなかった。

 

おばさんは驚いたように身を起こした。やつはもう走り去っている。やつの後ろ姿をみながら、おばさんは笑っていた。